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東京地方裁判所 昭和43年(ワ)5639号 判決 1971年8月16日

原告

小林昌作

外二名

代理人

青山樹左郎

被告

浅草観音温泉株式会社

代理人

中野道

外五名

主文

被告会社が昭和四三年二月二七日開催した臨時株主主総会においてなされた別紙目録記載の決議は、これを取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一  双方の申立

一  原告らの申立

主文同旨の判決

二  被告の申立

(一)  本案前の申立

「原告の訴を却下する。」との判決

(二)  本案に対する申立

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決

第二  双方の主張

一  被告の本案前の主張

原告らは、被告会社が昭和四三年二月二七日開催した臨時株主総会においてなした決議の取消を求めるものであるが、右訴は株主名義に記載された株主が右総会開催日である昭和四三年二月二七日から三ケ月内に提起することを必要とする。しかるに、原告らは被告会社の株主ではあるが、右訴提起期間の満了日である同年五月二七日までに、被告会社に対し株主名簿への名義書換請求をしなかつたため、右期間内には株主名簿に株主として記載されなかつた。

したがつて、原告らの本訴は、当事者適格を欠くもののなした不適法なものとして却下すべきものである。

二  原告らの請求原因

(一)  被告会社は特殊浴場経営、飲食物の販売などを目的とする株式会社で、資本額金二、〇〇〇万円、発行済株式総額四万株、一株の額面金額は金五〇〇円である。

(二)  原告小林昌作は被告会社の株式三、五七〇株、同小林昌逸は同株式五三〇株、同小林昌治は同株式二八〇株を有する株主である。

(三)  被告会社は、昭和四三年二月二七日臨時株主総会を開催し、別紙目録記載の各決議(以下本件決議と略称)をした。

(四)  しかしながら、本件決議には次の瑕疵があり取消されるべきものである。

(1) 本件決議は、株主である原告らに対し、招集通知をしないで開催された株主総会でなされたものであつて、違法な招集手続による決議である。

(2) 本件決議は、被告会社発行済株式総数四万株のうち、原告らに属する株式四、三八〇株がこれに参加する機会を失つた状況下になされたものであつて、著しく不公正な方法により行われたものである。

(3) 本件決議は、株主総会招集通知書に記載された議案と異なる内容の議案につきなされた違法なものである。すなわち、招集通知書の議案によると「取締役の任期満了、選任の件」とあるのに、決議の内容は「従前の取締役を留任させ、新たに取締役一名を増員し、取締役に田畠幸一を選任する」となつている。

(五)  よつて、原告らは被告に対し本件決議の取消を求めるものである。

三  請求原因に対する被告の答弁および訴訟上の主張(請求原因(四)の(3)につき)

(一)  請求原因(一)記載の事実を認める。

(二)  同(二)記載の事実を認める。但し、原告らが被告会社の株主名簿に株主として記載されたのは昭和四三年七月一三日である。

(三)  同(三)記載の事実を認める。

(四)  同(四)の(1)記載の事実は認めるが、同(四)の(2)記載の事実はこれを否認する。

(五)  同(四)の(3)記載の事実につき

(1) (訴訟上の主張)

右事実の主張は、本件訴状に記載されておらず、昭和四五年六月一八日付原告らの準備書面によつて、はじめて追加主張されたものであるが、株主総会の決議取消の訴における三ケ月の提起期間の制限は、追加主張の場合にも適用されるから、右追加主張も本件臨時総会開催から三ケ月内である昭和四五年五月二七日までになされなければならない筋合のものである。したがつて、右提起期間を徒過した後になされた右事実の主張は許されない。

(2) (答弁)

右事実を否認する。

四  被告の抗弁

(一)  請求原因(四)の(1)に対する抗弁

被告会社が原告らに対し本件臨時株主総会の招集通知を発しなかつたのは、右発送時である昭和四三年二月一二日当時、原告らが被告会社の株主名簿に株主として記載されていなかつたためである。株主総会の招集通知は株主名簿に記載された株主になせば足りるからもとより本件招集手続に違法はない。

(二)  請求原因(四)の(2)に対する抗弁

原告らの株式四、三八〇株が本件決議に参加する機会を失つたとしても、本件臨時株主総会における定足数は議題からみて過半数で足りるところ、当日は発行済株式総数四万株のうち三万〇五〇〇株の株主が出席し、十分審議のうえ本件決議がなされたもので、原告らの不参加は本件決議には影響がない。したがつて、原告ら主張のように本件決議が著しく不公正なものとはいえず、本件決議に取消に価する瑕疵があるともいえない。

(三)請求原因の(3)に対する抗弁

本件決議の内容と総会招集通知書記載の議案との間に、原告主張のような差異があるとしても、被告会社は本件決議に際して、出席株主全員に対し、招集通知書記載の「取締役任期満了選任」とあるのは「増員選任」の誤りであることを告げ、その了承を得て本件決議をなしたものである。しかし、右取り違えは招集通知の記載事項中左程重要な事項ではないから、右差異をもつて決議取消の理由とすることはできない。

(四)  請求原因(四)の(1)ないし(3)に対する抗抗弁

仮に、本件決議に原告主張のような瑕疵があるとしても、原告らは、昭和四三年八月二五日開催の被告会社定時株主総会に出席し、上程された「昭和四三年二月二七日臨時株主総会確認の件」の議題の審議に加わり、本件決議が有効であることを承認した。したがつて、本件決議の瑕疵は治癒されたものというべく、仮にそうでないとしても、原告らは本件決議の取消請求権を放棄したものというべきである。

五  抗弁に対する原告の答弁

(一)  抗弁(一)記載の事実を認める。

(二)  同(二)および(三)記載の事実はいずれも不知。

(三)  同(四)記載の事実を否認する。

六  原告らの再抗弁と自白の撤回

(一)  (抗弁(一)に対する再抗弁)

本件招集通知の発送当時、原告らが被告会社の株主名簿に株主として記載されていなくとも、被告会社は昭和四二年一二月一四日、原告らと被告会社間の株主権確認等請求事件(東京地方裁判所昭和四二年(ワ)第七六五九号)につき「原告小林昌作の被告会社の所有株が三、五七〇株(百株券甲一一一号から一三〇号まで二〇枚、百株券二七六号から二八九号まで一四枚、一株券六五号から八一号まで一七枚)、原告小林昌逸の所有株が五三〇株(百株券甲一八〇号から一八二号まで三枚、百株券三八四号、三八五号の二枚、十株券一〇〇号から一〇二号まで三枚)、原告小林昌治の所有株が二八〇株(百株券甲一八六号一枚、三八六号一枚、十株券乙一九号から二四号まで六枚、一〇三号および一〇四号二枚)であることを確認し、右各株券の裏面に被告会社の承認で記載したる田畠ふみ江名義の裏書を抹消し、右株式につき被告会社の株式名簿に登録されている田畠ふみ江名義を抹消して、原告ら名義で株主の復活登録をせよ」との原告らの請求の趣旨を認諾し、同日右認諾調書が作成された。

もつとも、原告らは被告会社に対し、右認諾調書に基づき株主名簿の名義書換の請求をしていないが、かかる場合においては、被告会社としては原告らに対し、本件臨時株主総会の招集通知をなすべきである。

(二)  (自白の撤回)

原告らは、再抗弁において認諾調書作成後これに基づき、被告会社に株主名義書換を請求していないと述べているが、真実は、右調書が被告会社に送達された後四、五日して、原告小林昌治がその余の原告らも代理して、被告会社に対して株主名簿の名義書換の請求をしたが、被告会社はこれを拒絶したのであるから、右自白を撤回する。

七  再抗弁に対する被告の答弁および自白撤回に対する異議

(一)  (答弁)

原告らの再抗弁事実はこれを認める。

しかし、原告らと被告会社間に原告ら主張のような認諾調書の作成があつても、直ちに原告らが被告会社の株主名簿に記載されたと同一の効果を生ずるものではない。若しかかる効果を認めるとすると、被告らが右認諾調書作成後名義書換までの間に株式を第三者に譲渡することが考えられ、この場合原告らを株主として取扱うことは妥当でない。しかるに、原告らは、右認諾調書作成後被告会社に対し株主名簿の名義書換を請求していないから、被告会社としては原告らに本件臨時株主総会開催の招集通知を発すべき義務はない。

(二)  (自白の撤回に対する異議)

原告ら主張の自白の撤回には異議がある。

第三  証拠<略>

理由

一(本件訴訟の適否)

被告は、原告らの各株式の取得が本件決議取消の訴の提起期間内に株主名簿に記載されるに至らなかつたことを理由に当事者適格を争うので考えるに、<証拠>によれば、原告らはその主張の各株式を取得したことを理由に被告会社を相手方として東京地方裁判所に右各株式の株主権が、原告らに属することの確認および株主名簿の名義書換を求める訴を提起し、右事件につき昭和四二年一二月一四日被告の認諾により原告ら主張の認諾調書が作成されたことが明らかである。かような場合、株式の取得者たる原告らは右認諾に基づき現実に株主名簿の書換を了しない間においても、名義書換の請求が不当に拒絶された場合と同様――むしろ、より以上の根拠をもつて――会社に対し株主としての権利を行使することができると解するのが相当である。けだし、右書換を求める訴の提起は特段の事情の認められない限り会社に対し名義書換の請求をしたのと同様に考えることができ、さらに前記認諾によつて本件株主権が原告らに属することおよび被告会社に各株式につき原告らのため株主名簿の名義書換をすべき義務のあることが確定判決と同一の効力をもつて確定されているからである。

よつて、右被告の主張は採用できず、原告らの当事者適格はこれを肯定すべきである。

二(本件請求の当否)

(一)  原告らの請求原因(一)ならびに(三)記載の事実、すなわち、原告らが、その主張のとおり被告会社の株主であること、昭和四三年二月二七日開催された被告会社の臨時株主総会において本件決議のなされたことは当事者間に争いがない。

(二)  そこで、原告ら主張の決議取消の事由につき検討する。

(1)  (原告らに対する招集通知の脱漏)

本件株主総会の招集手続のなされた当時、原告らが被告会社の株主であつたことおよび原告らに対し右総会の招集通知がなされたことはいずれも当事者間に争いがない。

もつとも、本件株主総会の招集手続のなされた当時、原告らが被告会社の株主名簿に株主として記載されていなかつたとの主張については、原告らの認めて争わないところであるが、一方原告らが被告会社を相手方として提起した原告ら主張の株主権確認および株式名義書換請求事件(東京地方裁判所昭和四二年(ワ)第七五六号事件)において、前記株主総会招集通知の発送前である昭和四二年一二月一四日原告ら主張のとおりの認諾調書が作成されたことも当事者間に争いがないから、理由冒頭に述べたように原告らは株主名簿の名義書換を受けなくても、被告会社に対し株主としての権利を行使しうるものというべきである。また、右のとおりである以上被告会社は原告らに対し株主総会招集の通知をなすべきであり、原告らのため株主名簿の名義書換がなされていないことを理由にその責を免れることはできないというべきである。

この理は、仮に、原告らが右認諾調書に基づき被告会社に対して株主名簿の名義書換を請求し、被告会社から拒絶されたとの事実の有無により異なるところではないから、この点につき判断を進めるまでもなく本件株主総会には、招集手続違反の瑕疵があるといわざるをえない。

(2)  (招集手続の瑕疵と本件決議への影響)

次に、被告は被告会社の発行済総株式数が四万株であり本件決議は右のうち三万五〇〇株の株主が出席し十分に審議したうえ決議がなされたから、前記の瑕疵は本件決議に影響はなく取消事由とするに足りない旨主張するけれども、右被告主張の点から直ちに前記招集手続の瑕疵が本件決議に影響を与えないものとは断じ難く、右主張は採用の限りでない。

(3)  (決議の瑕疵の治癒の有無等)

さらに、被告は本件決議の瑕疵がその取消事由となるとしても、その後の株主総会において原告らが右決議の有効なことを承認したので、右瑕疵は治癒もしくは、原告らにおいて本件決議の取消権を放棄したと主張するので考える。

(イ) <証拠>によると、本件訴訟の係属中である昭和四三年八月二五日に被告会社の定時株主総会が開催され、原告らが右総会に株主として出席したこと、右総会においては昭和四三年二月二七日の臨時株主総会の決議が有効であることを確認する旨の議案が可決されたことを認めることができるが、その際、被告主張のように、原告らが右議題に賛成し、本件決議の有効なことを承認したという事実を認めるに足りる証拠はなく、右被告の主張に沿う右乙第一号証の記載部分および証人北代元信の供述部分はいずれも原告小林昌治本人尋問の結果に照らして措信できない。

したがつて、原告らが右決議に賛成したことを前提とする被告の前記主張はいずれも理由がない。

(ロ) なお、附言するに、昭和四三年八月二五日の被告会社の定時株主総会において本件決議の有効であることを確認する議案が可決されていることは前述のとおりである。そこで、かかる場合果して、本件決議の瑕疵が治癒されるか否かであるが、かような決議はこれを合理的に解釈し、前決議が取消され、もしくは無効とされる場合に備え、同一内容の決議をなしたものとみて、その効力を認める余地があるかどうかは別として、これがため前決議の瑕疵が治癒される理由はなく、また、前決議の効力を争う訴がその利益を失なうとも解し難い。

(三)  以上の理由により、本件決議は取消を免れないから、原告ら主張のその余の取消事由につき判断するまでもなく、本訴請求は理由がある。

よつて原告らの本訴請求を認容することとし、訴訟費用の負担については民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(安岡満彦 山口和男 広田富男)

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